絡繰異聞・前日譚

贄人形07『人間卒業への第一歩』


 そして天音は本当に、璃音を引き連れて自分の寝ている部屋に来た。

「奏音。まだ生きてる?」

 あんまりと言えばあんまりだけれど、聞きたいことはよく分かるので、さて本体は何処がまだ動くかなと考えた。詩音の助けを借りた今となっては、自分の身体を動かすよりも、同じ部屋の機械を動かす方が楽だったりする。それはそれで人間の身体の限界を感じて辛いのだけれど、人間でない彼等に近付いているのであれば嬉しいなとも思う。

 全身全霊を込めて、なんとか一回だけ、瞼を持ち上げた。とても重くて、また直ぐに落ちてしまったけれど、通じたようだからそれで良い。

「そう。時間もあまりなさそうだから率直に聞くね。奏音、人間をやめてでも生きたい?」

 率直すぎて、きっと何も知らない状況で聞いたら尻込みしていただろう。天音は少々、偽悪的に振る舞うのが好きな気がする。

「機械人形になってでも生きたいか、人間としてこのまま死にたいか、選んで欲しいんだよね。ボク個人的には、無理に生きていても大変なんじゃないかなって思うんだけど」

 返事したいのは山々ながら、やっぱり身体が動かない。

「ほら、璃音。奏音も返事しないしさ」

 しないのではなく、本体ではできないのだけれど、意見を曲解されるのは気に食わない。

 部屋の中の機械で、意思表示できそうなのは。もう、いっそのこと。

「生きたい」

 天音が、バッと口を押さえた。

「私は、生きたい。璃音がお別れしない限り、頑張りたい」

 天音の口を動かすのは、思ったよりも簡単だった。璃音の方が、乗っ取りにくそうだ。

 一人芝居状態の天音に、璃音がオロオロしている。

「璃音。今は天音の口を借りているけれど、天音にずっと喋らせるのも気持ち悪い。医療用培養槽に、電子文字盤を接続して欲しい」

「わ、わかった」

 璃音がパタパタと部屋から出て行って、天音が恨みがましそうにこちらを見た。

 詩音がお腹を抱えて笑っているけれど、それは自分にしか見えていないのだろう。非常に残念なことだ。