絡繰異聞・本編

25『かくて都市伝説は現れる』璃音は舞降りた


 セキュリティシステムの掌握も、近辺の通信電波の掌握も完了した。この辺りの作業は奏音にとって、前菜のようなものに過ぎない。

 璃音にも迎えを頼んだ。動きやすい服装に着替えた。部屋も勿論、片付けてある。

 空から迎えに来る璃音の邪魔にならない服を選ぶには、少し時間がかかった。何せ、与えられた服の殆どがスカートだったので。

 奏音の特殊能力がハッキング能力であるならば、璃音の特殊能力は飛行能力だ。彼の絡繰子としてのコードネームは、堕天使。背に翼を負い、空を飛ぶ。多少の重さのもの、例えば奏音くらいであれば、抱えて飛ぶことだってできる。

 絡繰子。絡繰師という派手な都市伝説の裏に隠された狂科学者の作品群、元人間の機械人形たち。絡繰子の中でも更に異端な三人が集まり、絡繰師として世を騒がせている。絡繰師はあくまでも絡繰子の一部、世間に向けた表の顔の一つでしかないのだ。

 そう、機械人形であるから。たとえ応急処置を行っていても、動き回っている以上、奏音の傷が悪化することは免れない。適切な部品で修理しない限り、自然に傷を治す仕様には、していない。

 ついに奏音は決意した。たとえ事態を自らの手で更に動かすことになろうとも、龍神輝夜の屋敷から、去ることを。

 だから、この騒ぎは当然のこと。その筈なのに。

 どうしても、奏音の気は晴れなかった。

 露台に続く扉を開ければ、舞い降りる影。騒ぎの声が大きくなったような気もするが、奏音は敢えてそれを無視した。

 どうせ、もう去る場所。二度と、来ない場所。だから、何を気にしなければならない?

 そう、自らに言い聞かせて。

「良いのか?」

 地味な色の鬘を奏音に渡しながら、璃音が問う。奏音の亜麻色の髪は、夜の闇でも大いに目立つ。

「ええ。これ以上、ここには居られません」

 手早く髪をまとめ、鬘を被りながら奏音は答えた。だが、璃音は眉尻を下げ、問い直す。

「何も言わずに去ることになるが?」

 その問いは、奏音の心の弱い部分を的確に抉った。