絡繰異聞・本編

02『かくて騒ぎが持ち上がる』火付けと火消し


 絡繰師随一の問題児、騒動の火付け人、その名は天音。ひとたび表舞台に姿を現せば、それは天災の合図だと、世間は言う。

 たった一人で巻き起こす破壊の数々。しかし、その派手な所業にもかかわらず、かの存在の姿を捉えた映像は滅多に世に出回らない。何故なら、撮影された写真や動画の大半が、即座に再生エラーを起こすからだ。

「警告出して、被害状況更新して、ああもう、また撮影されてますね!?」

 火消しに回る奏音の方は、たまったものではない。各種電脳掲示板やソーシャルネットサービスに、或いは匿名で、或いはアンジェの通り名で、もしくは多数抱える捨てアカで、更には他人の捨てアカまで乗っ取って、とにかく破壊テロの警告を投げ込み、報道サイトの被害状況をひっそり書き換え、撮影された天音のデータにバグを仕込み、自身は騒動の大元へと走り続ける。

 たとえ天音のやっていることが目的の薄い通り魔でも、規模が大きければ破壊テロの名前にした方が周囲の反応が良い。いっそ爆弾でも使われていれば爆破テロと書けるのに、そこは普段からの予防が功を奏して、事前準備の必要な大型爆弾などは今のところは使用されそうにない。

 いくら奏音が人外レベルで優秀なハッカーといえども、さすがに天音を止めるには今の距離は遠すぎた。思考と感覚をハッキングして、読み取るまでが、精一杯で。

 奏音の走る速度が、落ちた。目的地に近付いたというのもあるが、周りに人間が増えてきたのだ。

 奏音は人間が苦手である。かつて人間に道具として使われ、廃棄され、処分まで受けた身とあっては、無理のないことかもしれないが。

 処分されるまでは、奏音も人間であった。今は、天音や璃音と同じ側だ。

 絡繰子。絡繰師の裏に隠された、もう一つの都市伝説を知る者は少ない。