絡繰異聞・本編

48『かくて機械屋の本領発揮』休憩時間


 詩音が救出され、脱出するということは、世間的にはザイオンサーバーが陥落するのとほぼ同義だ。難攻不落の大容量ネットサーバーとして、一流のサービスのみを取り扱っている詩音。急に全ての仕事を停止すれば、社会に与える影響は計り知れない。

 故に詩音は、風薫の用意した代替機へデータを転送し続けていた。最初は奏音の補助が必要だったその作業も、詩音自身に蓄積される負担が減ることにより、今やほぼ単独で進められるようになっている。

「今は十三号機に移しているところ。十二号機までの調子なら、あたしが見た感じは大丈夫そうかな」

「私が見た限りでも、大丈夫だと思います」

 詩音の報告に奏音も口を添え、風薫は頷いた。

「二人揃って大丈夫そうなら、問題ないわね。それにしても、詩音のいた場所に代替機をそのまま置いてくるって決めたけど、ちょっと多くなってきたような気がするわ」

 要はそれだけザイオンサーバーの容量が大きすぎたということだ。代替機を置けば向こうで何とかするでしょ、と風薫が提案したときに奏音は首を傾げたのだが、今ならその気持ちも解る。

「まあまあ。今は休憩する時間だろう」

 耀夜の指摘は尤もだったので、風薫は再度頷き、真理亜から水分補給のためのカップを受け取る。その間も奏音と璃音は天音の義躯の組み立て作業を継続中だ。機械人形たる二人は生身の人間ほどの休憩も必要なく、淡々と手を動かしている。精神的に疲れてきたときには雑談したりもするが、だからといって手を止める必要性はなかった。

「天音の組み立ても大詰めだな」

 耀夜は璃音にも声を掛け、璃音はやっと顔を上げた。

「ん、そうだな。天音にぃの注文が多すぎて、新規に造るのと同じくらいは掛かるだろうと予想していたが、その通りになった。むしろあの時、一ヶ月で造ったのがおかしかった」

 璃音は天音とはそれなりに長い付き合いで、絡繰子の制作も何度か見ているし、天音や奏音の制作に至っては手ずから組み立てにも参加している。あの時、と璃音が言うのは天音が絡繰子になった時で、一ヶ月しか猶予がなかったにもかかわらず、異常なまでに高揚した気持ちで手伝っていたら、何故か間に合ってしまった時のことを指していた。

「一ヶ月って凄いわね?」

 追憶に浸る璃音に、風薫が思い出話をせがむ。興味深そうな幾つもの視線に負け、璃音は訥々と当時のことを語り出す。

 休憩時間の予定を超えてしまったのは、仕方の無いことかもしれなかった。