絡繰異聞・前日譚

堕天使10『堕天使』


「バカバカ、この大馬鹿っ!」

 天音にぃはご立腹だ。飛行実験と飛行訓練の後、何故か天音にぃの自室に呼び出されたから、何事かと思った。

 ご立腹そうな天音にぃだけど、普段なら怖いけれど、今は全然怖くない。部屋に入るなり抱き締められてのお言葉じゃ、裏の本音が違うところにありそうなのがバレバレだ。こういうところ、天音にぃは甘い。というか、幼い。天音にぃの方が年上のはずなのに、拗ねている詩音を相手している気分になる。

「どうして僕があんなにお膳立てしてあげたのに、逃げないのさ!?」

 道理で訓練コースが面白かった訳だけれど、はて、逃げるとは?

 疑問がそのまま口から出ていたらしい。頭の上の天音にぃが、眉間にしわを寄せた。

「自由になりたかったんじゃないの?」

 何のことか解らず、見上げたまま首を傾げたら、今度は深々と嘆息された。

「空の上はさぞかし自由なのだろうなって言って、空を飛びたがってたじゃん。だから。璃音ももう賢いから解ってるでしょ。このままここにいたら、下手したら一生僕と一緒に実験漬けだよ」

「天音にぃとなら、問題ないな」

「僕とならって……えっ、ちょ、璃音!?」

 とてもくだらない問題だったみたいなので、お返しに天音にぃをぎゅっとしてやったら、見事にパニックになった声が聞こえた。

「というか、天音にぃじゃなきゃ、イヤだ。天音にぃがいるから戻ってきたのに」

 天音にぃにも誰かがいないと可哀想だ。と結構前から思っているのは、黙っておく。天音にぃはきっと、側にいてくれる誰かをずっと狂おしく求めている。そして、自分も、また。だから、ちょうど良いのではないだろうか。

「天音にぃは、自分がいては不満か?」

 上目遣いに見上げたら、天音にぃが撃沈した。

「何だよ、もう。本当に天使が堕天してる……」