十二ヶ月の彩り

十二月【誕生花・カトレア/誕生石・ターコイズ】


 妾は、カトレア。母上と父上から貰ったこの名を呼ぶ者は、今はめっきり、減ってしまった。皆、妾のことを陛下、陛下と呼んでくる。王の名を呼ぶのは恐れ多いとか言われるが、王家が実際に国を支配していたのはもう数百年も前の話。最早、ただのお飾りである今の王室の名を呼ぶことが、そんなにも恐れ多いものだとも思えない。
「どうせお飾りなのじゃから、そろそろ滅んでも良いものと、妾は思うぞよ?」
「まかり間違っても、この国の民には聞かせられない内容でございますね」
 呆れ返った表情のこの青年は、ターコイズ。現在、妾の無聊を慰めるという名目で城に呼ばれた、旅芸人一座に付き添っていた護衛の者だ。
「わかっておる。故に、其方に聞いてもらっているのじゃろう」
 何の役にも立たない王室を維持するために、毎年それなりに多くの予算が割かれているのが本当に心苦しいが、実際にそれで養ってもらっている立場では、文句を口にする資格などない。それでも胸の内に積もる思いを、こうして流れの者たちに聞いてもらうのが、最近の良くない習慣となりつつある。
「この国の女王であることは、そんなにお嫌ですか」
 思わず嘆息したら、ターコイズが真面目な顔で訊ねてきた。しかし、いかな妾とて、その問いに直接答えることは憚られる。無言で笑むと、彼に嘆息が移ってしまった。
「跡継ぎがいれば、辞めることはできますか?」
 今までは来なかった質問に、思わず瞬いた。その拍子に堪えていた涙が一粒、零れ落ちた気がしたが、きっと気のせいであろう。妾は、人前で泣くなと躾けられた故に。
 チッと舌打ちの音が聞こえた次の刹那、目の前に碧い瞳があった。
「とっとと跡継ぎさえこさえたら、この国から逃げられねーのかって聞いたんだよ、カトレア」