十二ヶ月の彩り

三月【誕生花・チューリップ/誕生石・アクアマリン】


 人間どもが、許せなかった。やつらは我が住処である海を埋め立てるに飽き足らず、毒を撒く。だから、我は天に水を還すのを止めた。水が巡らなければ、地上に恵みの雨が降ることはない。
 勿論、天や地の神々からは苦情が来たが、人間どもの所業が腹に据えかねたことを伝え、一度滅ぼすべきだと提言したら、黙った。向こうも向こうで、何かしら、思うところがあったのだろう。
 そうこうしていたら、かつて我を祀っていた神殿で、雨乞いの儀式なる野蛮極まりない風習が復活した。責任をたった一人の弱者に押し付け、海へ供物として捧げれば、我の機嫌がとれると考える浅はかな人間ども。それが余計に腹立たしいのだと、何故気が付かないのだろうか?
 がりがりに痩せ細った手足を、あばらの浮いた身体を純白の布で隠し、胸に何かの球根を抱いて海に沈んできた少女が孤児であることを、知っている。我へ花嫁として捧げる、などと神官は言っていたが、要するにただの口減らしである。
「龍神様、アクアマリン様。またムカムカしてきたの? せっかくキレイな鱗の色が、くすんできたの。人間に怒るのは、仕方がないと思う。でも、ほかの生き物たちまで巻き込むのは可哀想なの」
 本来は光すら届かぬ海の底、慌てて拵えた人間の為の領域で、チューリップの花を育てる少女に諭された。持ち込んだ球根から咲いた花を胸に抱きつつも、臆することなく我を見上げてくる。
「アクアマリン様は優しいから、みんなの代わりに怒ってくれてるの、わかってるの。でもね、私はここに来られて幸せだから、私のことでは怒って欲しくないなぁ」
 もう春だし、恵みの雨は必要だよ? と、念を押されては、意地は張れなかった。