「珍しいね、雪だ」
そう言って若君は、無邪気に笑う。これだけ地面が白ければ、走って足跡をつけに行きたくなるお年頃かと思いきや、窓から外を見ておっとりと笑うだけ。
「ふふ、そんな無粋なことはしないよ」
お外に行かれないのですか、と問うと、意味ありげに目を細める。その仕草でさえ優雅なシンピジウムの若君。
「だって、お前の髪の色なんだもの。お前を踏みつけにするなんて罰当たりなことはできないさ」
グゥ、と呻き声を漏らすに留めた自分は、ほめられても良いと思う。この白い髪と赤い目が不気味だと言われ、ろくな荷物も持たせてもらえず実家を追い出されたのはほんの数ヶ月前。なのに若君は、不吉の象徴とまで言われた自分を拾って、こうして大事にしてくれる。
「また余計なことを考えているね? ガーネット」
帰る場所も、呼ばれる名前も、生き甲斐も。全てをくれた若君に一生を捧げると、密かに誓っている。最初は何か裏があるのかと警戒していたはずなのに、気がつけばすっかり絆されていた。それだけシンピジウムの若君は、誠実に俺自身と向き合ってくれたんだ。
おっと、言葉遣いが乱れてしまった。咳払いで誤魔化しつつ、視線をずらしたら、窓に触れていた若君の真っ赤に染まった手が見えた。
「若君、それ以上は手が霜焼けになります」
そっと自分の手を添え、窓から引き離した。若君の顔までが真っ赤になったのを、意識的に無視しながら。