ドリームワールドオンライン

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「フットワーク軽いよね」
 民族衣装仲間な友とのお茶会で、不意に言われた言葉。
 柑橘系の香りがついた冷茶から視線を上げて、友に向ける。
「そう……だろうか?」
「そうだよー。どうして、そうホイホイと出掛けられるのか、本当に不思議」
「出掛けるだけだからね」
 友は、首を傾げた。何のことか、言葉が不足したようだ。
「遠出するだけなら、別に。イベントに参加してても、ほとんどは客としてだから。イベントに出展したり、更に主催してたりするのとは、きっと心労が違うと思う」
 何せ、ふらっと気の向くままに出掛けて、疲れた時点で抜けてしまえば良い。その点では、このドリームワールドオンラインは、本当に自分向きの場所だと思う。疲れた時点で、抜けてしまえる気軽さがある。
 目の前に座る友は、一部の間では有名な雑貨作家だ。動植物など、自然をモチーフとした民族調の雑貨はデザインが繊細で、しかも付属のコードから此処でも使えるアバターカスタムデータが落とせる。リアルの世界でもよく全国津々浦々の雑貨展に出展しているのを知っているし、今度店番を手伝う約束もしている。
 手伝うだけなら、まだ気楽なものだ。何をすべきか指示がもらえるし、最終責任も負わなくて良い。
 全てを背負い込んでもなお、あちこちに雑貨を展示する友の方が、きっと大きな勇気を持っているのだ。
「うーん、それはどうかなぁ?」
 友は再び、首を傾げた。
「パッと決めて、そのままパッと準備してパッと出掛けられるのも、十分すごいことだと思う。普通は、そこにも迷いが生じて、なかなか君みたいには軽々しく出掛けられないよ」
「……そ、か」
 返す言葉が咄嗟には出ず、冷茶に浮かぶ氷を見つめた自分の耳が熱い。何も、こんな感覚まで再現しなくても良いのに。
 幸いにも、心地よい関係性の友に囲まれ、此処からはまだまだ抜けられそうにない。
 微妙に夢心地、微妙にリアル。
 ここは、ドリームワールドオンライン。